ワーキングメモリと勉強(発達障害)
「短期記憶」、「長期記憶」、「ワーキングメモリ」というワードがあります。
ワーキングメモリ。学習面において、また知能検査などでも、よく出てくるワードですね。WISC検査ではWRI(ワーキングメモリ)という項目があったりもします。近年、「大人の発達障害」が注目されるようになったりADHDというワードが広まったことも、ワーキングメモリが注目されるようになったきっかけのひとつだと思います。(ADHDとは「注意欠陥多動性障害」と呼ばれる発達障害の一種で、ワーキングメモリの欠如はその原因と一つと考えられています。)
今回は「短期記憶」「長期記憶」「ワーキングメモリ」の違いについてお話したいと思います。
〜長期記憶と短期記憶〜
長期記憶とは
何かを見たり聞いたりした時、脳は一時的、短期的に記憶をします。
短期記憶が長期記憶になるとは、脳がその情報が重要かどうかを判断して重要だー!となれば短期記憶が長期記憶の貯蔵庫へと移ります。
その重要だー!と判断する一つの指標に『頻度』が大きく関わっています。つまり短期記憶をしたあと繰り返しその同じ情報が入ってくると脳は(あ、この情報は大切なんだな)と認識するようになり、長期的に記憶するようになります。
これは勉強でも同じで、何かを暗記したいときには、短期記憶を長期記憶に意識的に変換していくことがポイントになるわけです。
繰り返し脳を刺激して重要な情報だと思わせる。そうすることでテストでも点数が取れるようになります。
短期記憶を長期記憶に変換していく方法
脳に重要な情報だと思わせるための短期記憶を長期記憶に変換していく方法は、大きく分けて2つあります。
①意味記憶
意味記憶とは、国語だと漢字の読み書き、言葉の意味、算数だと数式といった知識の記憶をさします。 意味記憶の特徴としては、情報を長期記憶に貯蔵するためには、意識して覚えようとしないと覚えられないことです。体験を通してではなく学習により獲得されたものが意味記憶になります。「〜さんは記憶力が良い」という場合、この意味記憶のことを指しています。人間は幼少期にはこの意味記憶が非常に優れていて、いろんなことを吸収して覚えていきます。しかし中学生あたりからは次第に意味記憶が弱くなっていきます。ですので学習面においては次のエピソード記憶がより重要になってきます。
②エピソード記憶
いつ、どこで、誰と〜をした。こうした体験したことによる記憶をエピソード記憶といいます。それが特別なことであればあるほど、記憶に残るイベントとして保存されます。
例えば運動会や修学旅行、家族旅行や好きな歌手のライブといった大きなイベントはもちろん、日常のなかにも「あ、この単語は確か先生が〜の話をしてた時に出てきたやつだ」「これは前に友達と絵を描き合って爆笑したときに出てきた人物だ」とエピソードとして残るものもあります。
また、ストーリーやテンポを作ったりして、覚えたいことにこじつける方法もあります。その典型的な例が語呂合わせです。
◎エピソード記憶のポイント1
語呂合わせ!
◎エピソード記憶のポイント2
意味記憶を自分でエピソードに仕立て上げる。例えば図解や絵にして見せ合ったり友達にクイズを出してみるなど。
◎エピソード記憶のポイント3
友達や先生に解説をしてみる、自分で自分に解説をしてみる
〜短期記憶とワーキングメモリ〜
数字や単語、文字をただ一時的に頭にメモして覚えることを短期記憶といいました。
このメモした記憶を保持しながらそれらを使って脳が何かしらの情報処理(=作業)をすることがワーキングメモリです。
具体的には、、、
短期記憶
私「今から言う数字を覚えてねー。いくよ。5.1.8.3.2.9」
あなた→5.1.8.3.2.9.という数列を覚える。
ワーキングメモリ
私「今から言う数字を覚えてねー。いくよ。5.1.8.3.2.9」
私「では覚えた数列を反対から言ってください」
私「では覚えた数列を前から順番に足してください。」
私「では覚えた数列を一つ飛ばしで言ってみてください
このようにワーキングメモリは短期記憶を使って作業をしていくイメージです。ですのでワーキングメモリは別名作業記憶ともいいますが、『記憶』というよりは『処理能力』と考えるほうが理解しやすいでしょう。
勉強はIQよりワーキングメモリ?
発達障害児にはこのワーキングメモリが低いために勉強が苦手な子供がたくさんいます。言語理解や知覚推理はそこまで低くないけどワーキングメモリだけが他の項目よりも低いケースとかよくみられます。
例えば学校の教室での算数の授業での一場面。先生が「はい、ではドリルは閉じてください。そして今から教科書の18ページの問題2のかっこ1を解いてみてくださーい。終わった人はかっこ2は飛ばして次の問題3をやってみてねー。はい、スタート!」と言いました。
算数が得意不得意の前に、ワーキングメモリが低いと先生の話した言葉(情報)がうまく処理できず、「ドリル」「教科書」「18」「問題2」「かっこ1」「かっこ2」「問題3」のどれかを忘れたりゴチャゴチャになったりします。そして(えーと、、教科書18ページの、あれ?問題1だっけ?2だっけ?どっちのかっこ何番をやるって言ったっけ?みんなどうしてるんだろ、、、)と混乱し、みんながどうしてるかキョロキョロしたり、間違えたまま問題1をやろうとしたりしてしまいます。
先生からは、「キョロキョロして落ち着きがない」「授業に集中できていない」「人の話をちゃんと聞けない」と思われてしまうこともあります。
人の話だけではなく、例えば算数の筆算や文章題でも、繰り上がる数を小さく書いて、その書いた数を後で足すことを忘れたり、文章題で始めのほうに出てきた言葉を忘れたりもします。
複数の作業を同時並行で進めていく中で、優先順位を決めてミスのない手順で作業を完遂することがとても困難だったりもします。
そうすると、学校生活でプリントやワークをなくしたり、ケアレスミスを繰り返したりしてしまうことにもなります。
日常生活でも、例えばおつりの計算をしたり人の話を聞いたりするときも、ワーキングメモリが低いと相手の誤解を招くこともでてきます。
そして、このワーキングメモリが低いと勉強に遅れが生じることも最近の研究で明らかになってきました。(以前はIQの数値が高いと勉強が出来る、IQが低いと勉強が出来ない、という考え方が一般的でしたが、現在では勉強はIQよりワーキングメモリが大きく関与していると様々な研究でわかるようになってきました)
〜まとめ〜
短期記憶を長期記憶に変換していく方法を身につけさせ、ワーキングメモリを高めさせていけば、発達障害やグレーゾーンの子供でも勉強に自信が持てるようになるはずです。
今回は長期記憶と短期記憶、短期記憶とワーキングメモリについてお話させていただきました。
勉強にはワーキングメモリがとても大切なんだということが少しでも伝われば幸いです。
そしてワーキングメモリを鍛えれば勉強面でも効果が出ることもおわかりいただけたかと思います。
ワーキングメモリを鍛えることについてもまたの機会にお話したいと思います。
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